どこか誰も寄せ付けない人なのだと思っていた。 例えるなら。一切の他の色を溶かさないその青色の空に、白い直線を一本描く、硬質な翼のような。
ローカルイースト。羽田の航空管制官にとって一人前と認められる者にしか与えられないその席に彼はいる。 その背に寄り添う、もうひとつの翼の気配に気が付いたのは、いつからだっただろう。ずっと見つめていたはずなのに、今も分からないままでいる。
ーーー
「だから何で、あのタイミングでスターフライヤー入れなかったんだ、蕪木」
目の前でぶつぶつと呟くのは、清家主任管制官だ。 顎髭の上の大きな口が次々に紡ぎ出す愚痴に、耳を傾けた。この髭、毎朝自惚れ気味に整えているんじゃないだろうかと、そんな風に思ったのは口にはしない。 聞き入れては貰えないだろうとは思ったが、一応思いだけはあるのだと、ひとしきり「指導」という名の文句を頭半分に飲み込んでから、そろそろと口を開く。 「・・・いやそれは」 「お前が遠慮したせいで、出発機が溜まって苦情の嵐だったじゃねえか。後を受けるこっちの身にもなれって」 「すみません」 「一瞬迷ったら後々尾を引くんだからな」 「はい・・・」 「まあまあ」 そう言って間に入ってくれたのは年配の、栗田主任管制官だった。 おつかれさま、と目の前に置かれたコーヒーは淡いベージュ色をしている。ミルクも砂糖もたっぷりで正直苦手だった。けれどOJTからの恩があることと、このやんわりと人の良い表情に負けて、ブラックが好みだということはずっと言えないままでいる。 「結果的には大きく遅延するほどの混雑にはなりませんでしたから。良かったんじゃないですか清家さん」 「栗田さん・・・」 「甘い、そういう風に甘やかすからですよ、栗田さん」 そう切るように言われて、栗田主任は小さく肩を竦めた。その気遣いは、清家主任には伝わっていないらしい。低く尖った声はお構いなしに続く。 「・・・あと、何で全日空を34Rに降ろした?」 「それは、・・・ええと」 言い淀んだ隙間に畳み掛けられる。 「着陸機は34Lが基本だろ」 「・・・そうですけど」 「何でわざわざ34Rに指示出した?お前羽田に来てどんだけたってんだ」 「34Rなら全日空機の移動も少なくて済みますし、その分コストも削減できて、パイロットの負担も・・・」 「そんな話してねえだろうが、コストなんて管制官は考えなくていいんだよ。管制官は安全に航空機を降ろすことが最優先だ。航空管制業務の基本、忘れたのか」 「それは、そうですけど・・・」 不満そうに口を尖らせた自分を、清家主任は睨みつける。異論は認めないという空気が、ありありと伝わる。 けれど言われっぱなしは性に合わない。自分の性格の、よろしくない部分がむくりと頭をもたげるのが分かった。
「———新波さんなら、そうすると思って」 「ああ?新波?」 清家主任の顔が変に歪むのが分かった。 「そうです、新波さんならパイロットのことを思ってそうすると思ったんです。きっと新波さんなら———・・・」 滑走路を見つめるぴんと伸びた背筋が目の前に浮かんだ。 管制官として歩み始めて、追いかけようと思った唯一のその背が、空を見上げる。PTTボタンを押して、穏やかで低い声が整然と、航空機を降ろし飛ばしていく。そこに無駄は無いが、温度が無いわけではない。 『Have a nice flight.Good day.』 小さな口元だけの笑みを浮かべて、そう締めくくる。 最後の最後まで手を離さない。そうして空へ翼を引き上げる。彼の人柄がそこに宿っていた。
「———・・・」 流れた冷えた空気を感じ取ったのだろう、栗田主任が困ったように辺りを見回すのが分かった。 ありがたい「指導」であることは分かっている。目の前の清家主任も羽田のベテランで、管制の腕前は相当なものだ。プライドもあるだろうから、目の前で他の管制官の名前を挙げられるのにいい気持ちはしないのも分かる。 けれど一度火がついてしまった反骨心はどうにもこうにも収めようがなかった。しまった、と頭の片隅で一人ごちるが、零れた言葉は止まらなかった。 次の言葉を覚悟して、肩を竦める。 「———・・・お前」 「・・・」 「新波目指そうなんて、・・・・・・百万年はええええええんだよ!!!!」 「ぎゃあっ!」 ばし、と後頭部を平手で殴られて、びりびりと痺れた痛みが全身に広がる。 「ちょっと!!清家さん痛いじゃないすか!!!」 「あいつは変態なんだよ!!管制バカ!!変態!!お前があいつの管制真似しようなんて、タヌキがガンダム操縦するくらい無理なことなの!分かってる!?」 「そこまで言わなくてもいいんじゃないですか!だいたいタヌキって何ですかタヌキって!俺のどこがタヌキだって言うんですか!!」 「ちょっとちょっと清家さん・・・」 「タヌキっつったらタヌキなんだよタヌキ!!かっこつけて頭尖らしてんじゃねえぞ。レーティングとったばっかのタヌキのくせに、洒落込んでる暇あったら休みにまでエアバン聴いてるそこの変態くらい勉強しろ!!」 「そんなの、清家さんの髭だってそうでしょ!!」 「俺は主任管制官様だ!かっこつけタヌキのお前とは違う!!」 「ひどい!それが先輩の言うことなんすか!!」 「うるさい、そういう生意気はなあ、一人でラッシュ捌けるようになってから言え!!
———新波!お前も何か言ってやれ!!」
「・・・・・・何か言ったか?」 ふわ、と一つ大きなあくびをして、それから彼が軽く伸びをしてからこちらを見つめるのが分かった。 ヒートアップしていた休憩室の空気が、しゅるしゅると勢いを無くすのが肌で分かる。それは彼が漂わせるどこか柔らかな空気のせいだろうかと思った。けして柔なわけでも、頼りないわけでもないのだが、この人がいると、ささくれ立った空気が急に穏やかな波のように静まる。そんな気がしていた。 かっかと声を荒らげていた清家主任も勢いを削がれたのだろう、もごもごと言い足りない言葉をどうにか飲み込んで、そうして大きなため息を吐く。栗田主任がほっとしたように強張っていた肩の力を緩めた。 「・・・何だ、新波お前、最近疲れてないか」 「、いいや?」 そう言って、彼はテーブルの上の厚い本をぱたりと閉じた。 ぱしぱしと瞬きをする目は少し長めの睫毛に縁取られている。耳元から顎にかけてのラインは無骨さと繊細さの中間のような、整った曲線を描いていた。がっしりというわけでもないけれど華奢というわけでもない肩口にちょうど良いように沿う淡いスカイブルーのシャツの袖口から、筋張った手がのぞく。 長い指先が、同じベージュ色の液体の入ったカップを持ち上げた。 「蕪木」 「・・・はい」 「航空管制業務とは?」 「航空交通の安全を図り、その秩序を整えること、です」 保安大学校から百万回は尋ねられただろう質問に答えると、彼はやんわりと笑った。 「まず最優先は、安全に迅速に航空機を目的の場所へ送ることだ。清家の言うことに間違いは無い」 「・・・」 ほらみろ、と清家主任のしてやったという声が聴こえる。 「コストを含めて考えるのはその先のことで、蕪木にはまだ早いな」 「新波さん」 「さっきの506便。 あれはウインドチェックをもう少しこまめに送ってやったほうが良かった。あと、全日空とスカイマークの間隔は詰まり過ぎだ。あのセパレーションで降りてくる航空機にはもっときちんとトラフィックインフォメーションを出してやる方がいい」 「はい」 水がさらさらと流れるように、先程の自分の管制を評価された。 確かに同じタイミングでローカル席に立っていたというのに、この人は他の管制もきちんと把握しているのかと、溜飲の下がる思いで肩が小さくなる。 そして自分でも気が付かない管制の抜けを指摘されて、ますます身の縮こまる思いがした。自分の欠点は把握しているつもりでも、人から見ればまだまだ多いのだろうと思う。 彼は続けた。 「ただ、パイロットの負担を考えるのは悪いことじゃない。余裕のある時に、心がける程度に留めておけばいいんじゃないか」 「あ、ありがとうございます・・・」 「まったく、甘いなお前も」 呆れたような声が聞こえる。それに彼が返した。 「厳しいだけでも、やっていけんだろ。後輩は潰すもんじゃなくて育てるもんだろう」 「だからこの頭つんつんタヌキがつけあがるんだろ、俺はいつか、新波さんになる!っつってなあ」 「清家さん!!」 はは、と彼は小さく笑って、そうしてまた、こらえきれないようにふわりとあくびをした。 手で口元を抑えて、ばつの悪そうな顔をする。
「悪い」 「・・・ほんとに新波さん、疲れてません?」 清家主任と二人で少しだけのぞきこむようにその顔を見つめると、二組の視線に戸惑ったように、彼が顔をのけぞらせた。 「疲れては、ない」 自分でも自信がないような、そんな細い声音で彼はそう答える。会話に妙な間が空いた。それを打ち崩すように、清家主任が口を開いた。 「お前ん家、ここから近かったよな。確か、引っ越して」 「・・・、ああ、まあ」 「羽田に近いほうが通勤楽だからとか、そんなこと言ってたろう。だったらそんな疲れてるとかなくない。ここんとこトラブルも無いし残業も無かったろ。ひょっとして調子悪いのか」 「そんなことは・・・ただ、最近少し寝不足で」 清家主任の口調が詰問のようになってきているのか、彼が困ったように小さく眉根を寄せるのが分かった。 「「寝不足?」」 「あ、・・・、いや」 自分で答えて、彼はしまったという顔をする。 一瞬後にさっと彼の目尻に朱が差すのを、目ざとい隣の清家主任は見逃さなかった。にたあと口元を上げて気味悪く笑うのが分かった。 「あ、あーああ、なるほどー」 「あ、清家お前止めろ、そういうことじゃない」 「え、なんすかどういうことすか」 「そういうことー、はいはい、だからか、最近お前いっつも眠そうなのは」 うんうんうん、と納得したように大きく頷くのを、全く納得できない頭でただ見つめる。その隣で、頬を赤くさせたり白くさせたり青くさせたりしているのは彼だ。 タワーの最上部、ローカルイーストで見る彼の硬質な佇まいはそこにはない。そのことに新鮮な気持ちがして、ただその理由に思い当たらないのにどこかもどかしい気持ちがした。 どういうことかと考えたが、ヒントのないクイズに答えられるほどまだ羽田の空気には慣れきっていないことに気付く。それとも、航空保安大学校の同期だったという二人の間だからこそ成り立つ会話なのか。だとしても、どこかはみ出してしまったようで寂しい思いがする。 「違う・・・・いや、違わない、いや・・・」 「いいんだいいんだ新波。クリスマス前だしな、分かるよ」 「だからそういうことじゃ、・・・」 彼は困ったように俯いてぼそぼそと呟いていた。 「ちょっと俺だけ置いてきぼりなの止めてくださいよ」 強引に割り入ろうとしたところを制止される。 「蕪木。それこそまだお前には早い、詮索するな空気読め」 「ええ、ますます分かりませんよ。二人で完結しないでください。どういうことですか、新波さん」 「知らなくていい蕪木、清家いい加減にしろ」 「まあまあ、またおいおい聞かせてもらうか。そういやもうすぐ涌井チーム忘年会だしなあ」 「喋らないからな俺は」 「はいはい。
———さて、休憩時間も終わりだな、そろそろ上がるか」
「行くぞ蕪木」 「あ、はい」 緩やかだった休憩室の空気はぴりと引き締まったのが分かった。穏やかに笑っていた栗田主任も口元を引き結んで、先程の軽口が嘘のように、清家主任の目がきゅ、ときつく前方を見据えた。 2分に1機が離着陸を繰り返す、世界で最も忙しい空港と言われる羽田、東京国際空港の緊張感が形になって戻ってくる。 立ち上がって襟を整える隣の彼もそうだった。柔らかな空気はそのままだ。けれどもうそこにあるのは、あの席・・・ローカルイーストで航空機を見据えるその顔だった。 胸の底が、ざわりと心地よい興奮で満たされる。それは、極度の緊張感とプレッシャーの裏にある興奮だということは分かっていた。 年間7000万人の利用客の命を預かる。その重みを背負って、毎日、空を見つめる。 航空管制官という仕事は、そういう仕事だ。彼の背に、そう教えられる。
曇りひとつない空に飛ぶ、一対の翼。 タワー最上部に向かう彼の背に、それはいつも見えている。追いかけるようにその後についた。午後のラッシュは近くなっていた。
ーーー
「いや俺はさあ、嬉しいんだよ」
空港からほど近い、バラエティに富んだ餃子が売りの居酒屋の個室には、大きなクリスマスツリーが飾られている。赤や緑の灯りがちかちかと灯るのを眺めながら、何杯目かのビールに口をつけた。 隣の個室からも、大きな笑い声が聴こえる。クリスマス前、仕事納めも近いこの時期はどこもこんなものだろう。特にここは空港からも近い。空港の職員も普段からよく利用している居酒屋だ。ひょっとすると隣の客も、どこかの部署の人間なのかもしれなかった。 「あの管制バカしか長所のないお前にだよ?まともに恋愛出来る相手が出来たことにさあ、俺はね、涙が出るほど嬉しいわけですよ」 宴もたけなわで、だらだらと管を巻く清家主任を呆れたように見つめた。典型的な絡み酒っぷりに、周りの人間も声をかけることは無い。奥の上席では涌井次席が趣味の釣りについて延々と講釈を垂れていて、その相手をしているのは栗田主任だった。本当にあの人は、人がいい。 「清家、それ以上喋るな」 素面に近いがほろ酔いなのだろう彼は、本気ではない口調で、清家主任を諌めた。ほのかに赤らんだ頬は、アルコールのせいなのか、それとも今話題に上がっている自分の恋愛のことが原因なのか、それは分からない。 「お前を寝不足にするほどの!それを許しているほどの!相手って、・・・・・・ええと、誰?」 「知らん」 とろりとした赤い目を彼に向けて、清家主任は可愛げもなく小首を傾げた。何だ知らないのかと、心の中でだけ毒づいた。 それと同時に、なるほどなと、ようやく合点がいったことに喉元がすっきりする気持ちになった。 お前にはまだ早いとは失礼なことだと思ったが、あくびの理由を知って何とも言えない思いがしたのは事実だ。堅物を絵に描いたようなこの目の前の彼には、きちんとそういう相手がいたということらしい。 ———全然、そんなところ、見たことも。 職場の上司の色めいた事情を知ったところで何のメリットもない気はするが、知っていないなら知っていないでどことなく、落胆する思いはある。特に、普段そんな気配を滲ませもしない相手なら。ただそれは、彼には言うことではない。わずかに落胆しているのは自分の勝手だからだ。 「何だお前水臭いなあ。この機会だ、吐け吐け」 ビールのジョッキを掲げて、清家主任はそう言った。 「吐くか馬鹿野郎」 「何だ、新波。お前もしかして道ならぬ相手なのか」 「そんなもんじゃない」 ため息まじりに彼は言う。 「———そもそも職場の飲み会で俺みたいな奴の話をして、何が面白いんだ」 同意を求めるようにちらりとこちらを見つめてくるのが分かった。どうしたものかと逡巡して、そうして口を開いた。 「・・・意外でした」 「、蕪木」 「新波さんも、人並みにそういう恋愛するんだって。意外で」 「・・・どういう意味だ」 低い声に、機嫌を損ねたかと、一瞬ひやりとする。繕うように言葉を重ねた。 「いや、その。 ・・・管制官って、ものすごい勉強しなきゃじゃないですか。空港変わる度にレーティング取り直さないといけないっていうし、航空法は都度アップデートされるし、システムも。場合によっては気象系の資格だっているでしょう。 きっと新波さんだけじゃなくって、管制官って恋愛する暇なんて無いだろうと思ってたんで」 「・・・そうだな」 「だよなあ、こいつ、ほんとそういう話題無かったからな」 「清家・・・」 「恋愛より管制、キャッキャウフフより航空機。そんな男だからな、新波は。 歴代の彼女も、トウキョウ・タワーの前には無惨に散ってばかりよ。誰とも1年もたなかったね」 「・・・」 不服そうに憮然とした表情で黙り込んだ彼に、清家主任は言葉を重ねた。
「まあ、こんな仕事じゃ仕方ないところもあるんだがな」 きっと清家主任は、彼の今までのことをよく知っているのだろうと思った。 ほんの少しだけ懐かしむようなその視線に、次の言葉を待つ。 「仕事より大事に出来る相手はいない。だから傷つけるくらいなら始めから深い関係は結ばない。・・・お前、ずっとそればっかりだったじゃないか」 「・・・」 「心配してたんだよ、俺は」
「———そんなんじゃいつか、本当にこの空で、一人になっちまうぞって」
「管制バカの変態のお前の手を離さない、お前を空で一人にしない奴がいてくれたことに、俺は感謝するよ」 「・・・」 「今度は離すなよ、新波」 噛みしめるようにそう言って、清家主任はジョッキの中の残り少ない液体を飲み干した。 一瞬、賑やかしかった場の空気が静まるのが分かる。けれどそれは冷えていくものではなくて、周りの人間も知らない、彼と清家主任の過ごしてきた時間を思う、緩やかであたたかいものだった。 口をきゅ、と引き結んだままの彼の顔を見る。その表情に、不満や怒りは見て取れない。 「・・・・・・」 「誰かはわからんが。・・・誰なの」 「知らん」 「頑なだな歳也ちゃん」 「・・・相手に迷惑がかかる」 「真面目か」 「うるさい。・・・もういい加減、お前の子どもの話でもしとけ」 そう切るように言って、彼はグラスの中のビールをもう一口飲み下した。それ以上は何も話さないという彼の姿勢を汲み取ったのか、清家主任もそれ以上絡むことは無かった。話題は清家主任の生まれたばかりの二人目の子どもの話に変わって、会は和やかに続いていく。 可愛い盛りの子ども自慢をグラス片手に聞く、彼の横顔を盗み見た。 うっすらと寄る目尻の皺がほんのわずかに深くなる。その、よく見ていなければ分からないほどの柔らかな笑みの奥に、彼の想う誰かがいるような気がした。それを知りたいような、けれど知らないほうがいいような、曖昧な感情が自分の胸の中を満たしていくのが分かった。
「あら、新波くんじゃない」 「・・・あ」 「あなたのところも忘年会?」 会計を終えた居酒屋の入り口で彼に声をかけたのは、すらりと背の高い一人の女性だった。店内に漂うアルコールの匂いに混じって、彼女からは甘い花の香りが漂った。横に流した髪は柔らかな曲線を描いて、彼女の肩口で揺れる。 「まあ、そんなところだ」 彼女がおそらくCAであることは何となく分かった。匂いとでも言うのだろうか。あと、彼女の後ろに控えた幾人かの女性の雰囲気が、そんな風に見えたからだった。 「海老名チーフ、お知り合いですか?」 「ああ、まあ呑み友達だけど。新波くん。管制官」 「ええー管制官、すごおい」 色めき立ったような高い声が、レジ前で響く。 まあ確かにそうなるだろうなと隣で困ったような表情を浮かべる彼を見つめた。 年齢を重ねてはいるが、それに見合わない見た目は同じ男性の自分から見ても、そこそこ良い方なのだろうと思っていた。それに人柄は抜群にいいからきっとモテるだろう。そう思っていただけに、浮いた話があまりないという今日の宴席での話題を思い出す。意外だと思ったのはそれも理由の一つだ。 「彼は?」 興味深げにこちらを覗き込んでくる彼女の口元は、嫌味でないピンクベージュで控え目な艶を放っている。 「ああ、・・・蕪木。彼も管制官だ」 「あ、初めまして・・・」 「・・・ああそっか。あなたからしたら初めましてか」 含んだような笑みを彼女は浮かべて、こちらを見つめたままだ。持って回ったようなその言い方に、怪訝な顔を隠せないでいた。 「え?」 「例の1年前のメディカルエマージェンシーの子でしょ」 「・・・」 「秋津くんが言ってた。とても世話になったって子」 「秋津・・・さん?」
「私もあの507便に乗ってたの。覚えてますか?」 彼女はそう尋ねてきた。 「ええと、・・・・ああ・・・」 どうにか記憶を掘り起こして、1年前の出来事を思い起こした。それは、新千歳行きのジャパンエアー507便がメディカルエマージェンシーで羽田に引き返してきたときの出来事だった。 「あの時の」 「そう、あの時の」 彼女はにっこりと艶の乗った唇に弧を描いて、微笑んだ。 あの時、タワーに彼はいなかった。その新千歳行き507便に乗っていたからだ。理由はよく分からなかったが、あの1年前の当日、早番だったはずの彼は急に「乗りたい飛行機があるから休みを取りたい」と有給申請をしてきた。だからすぐに思い出すことが出来た。 そんな唐突に、自分の都合で有給を取るような人物ではなかったから、地上管制席にいた誰もが驚いたことを覚えている。切羽詰まった様子で、どうしても507便に乗らなければいけないとそう言ってきた彼に、涌井次席は何も言わずに有給を承認した。そしてその代わりにローカルに立つことになったのが自分だったのだ。 もちろんあの時の自分はレーティングも取れておらず、実質は何もできない訓練生だった。けれどいざという時には清家主任や栗田主任がカットインしてフォローするという約束で、練習してみろとばかりにローカルに立つことになった。何事も無ければと思ったが、結果として、507便のメディカルエマージェンシーに対応することになった。 秋津という名前もよく知っている。彼と仲が良いパイロットで、自分も、何度か顔を合わせたことがある。 羽田に配属されて間もなかった頃、辞めようとしていた自分を引き留めたのはそのパイロットだった。そのことも、覚えている。 「ずっとお礼、言えていなかったわね」 「そんな、もうだいぶ前の話で・・・」 「それでも、あなたの『声』に、507便のスタッフは救われましたから。ありがとうございます」 「・・・・・・はい」 面と向かって礼を言われることにはそれほど慣れていなくて、まごついた自分を隣に立つ彼は何も言わずに見つめていた。 管制官は裏方で、命を預かるという重い責務を担っているのにいないもの扱いで感謝もされない。 そんな割に合わない仕事は出来ないと放り投げようとしたのを止めてきたのが、パイロットの彼だった。 管制官の「声」が無ければ飛ぶことは出来ない、その「声」が必要なのだと、そう言われたことが、どうにか今でも、自分をこの場所に立たせているのだろうと思っている。 今隣にいる彼も、そんな風に救われた経験があるのだろうか。今でもパイロットの彼とは親しげに付き合ってはいるようだった。 たまにターミナル前で会って、挨拶程度の会話を交わすこともある。尋ねたことは無いが、そうやって繋がっていることに何か理由はあるような気がした。
「そう言えば、年末はハワイなのよ。秋津くんから聞いてる?」 ちらりとこちらを横目で見た彼女は彼にそう話しかけた。 「ああ、聞いてる」 「年末年始のホノルル便なんてややこしくて。ついてないわよね。・・・向こうでステイして、帰ってくるのは3日かな」 「そうか」 「お正月はそれからね。ちょっとさみしいけど」 彼女はそう言って、ふふ、と小さく笑った。ほんのわずかに彼は呆れたように、言葉を継いだ。 「・・・いつものことだろ。最近は国際線乗務も増えているみたいだし、年の半分はいないようなもんだ。承知はしている」 「そうね、分かってたことか」 「・・・」 「さて我慢比べはどっちが強いのかしらね」 「さあ、・・・」 彼は時おりこちらを気にするようにして、小さな声で彼女に答える。 含んだような会話の真意はあまり掴めない。誰のことを話しているのかもあまり見当がつかなかった。 ただ年末年始のホノルル便に彼女が乗務するということだけは分かった。そうしてどうやら、あのパイロットの彼も、そのホノルル便に乗務するらしかった。
ちゃり、と金属とアスファルトが擦れる音がする。足元に落ちたキーリングに視線を落とした。 「新波さん」 「え?」 「落としましたけど」 指先でそっとそれを拾うと、キーリングにいくつかの鍵がぶら下がっていることに気付いた。居酒屋の温度はもうすっかり遠のいて、冷えた夜の海風が頬にぶつかる。そう言えば明日は寒冷前線が北から降りてきて、ホワイトクリスマスになるとかなんとか言っていたなとそう、タワーで目にした気象図をふと思い起こした。 「あ、ああ、悪いな」 彼が差し出してきた手のひらに、そのキーリングを乗せる。外の寒気を受け取ったように、ひんやりとした金属の感覚が残るのを感じていた。 「———ウミガメと、飛行機ですか」 言うべきかどうか迷ったその言葉を口にすると、彼は少しだけ目を瞠るようにこちらを見つめてきた。 清家主任やその他の職員は二次会と言って姿を消したあとだった。二次会までは付き合うつもりはなくて、それをやんわりと告げると、最近の若いやつは、とごちられたが特に咎め立てされることも無かった。 明日は早番だからと彼も早々に宴席を抜けていて、駅に向かう自分とこの近くの自宅に歩いて戻るのだという彼でなぜだか、この人気の無い橋の上を歩いている。 ちゃぷん、と橋桁に波がぶつかる音がしたような気がした。冬の静寂は他の季節のそれよりも、肌にきんと刺すような感触がする。 キーリングに鍵以外にぶら下がったその飾りのことだと気が付いたのだろう。彼は手のひらでそのキーリングを何度か転がして、うっすらと小さく笑った。夜の闇に溶けそうな小さく微かな笑顔に、一瞬どくりと、心臓が鳴った。 「蕪木は、目が良いな」 「そうですか・・・」 「ホヌ。知ってるか」 「ホヌ?」 「ああ、・・・ハワイでは、ウミガメは海の守り神とされて、そう呼ばれている」 彼はそう言って、そのウミガメの形をした飾りをつまんで、指先で撫でた。 「全日空のフライングホヌ、あれなら分かるだろう」 「あ、ああ、あれか」 エアバス社の巨大なジャンボジェット。あれは確かウミガメを模した塗装が施されていたはずだ。タワーからでもあの巨大な機体は一目で分かることを思い出した。納得したように頷くと、彼は少しだけ肩の力を抜くように、笑みを深くした。 「もしかして、ハワイ土産?」 自分で言っておいて、なんと安い響きなのだろうと一瞬後に後悔した。とても大切なもののようにそれを握りしめる彼の指先からは、そんな軽い感情は感じ取れなかったからだ。もっと他に言い方はあっただろうと、口を噤んだ。 彼は別段、そのことを気にする風でもなく、こちらを見つめているままだった。そうしてふ、と息を吐くように笑う。 「まあそんなもんだな」 「誰からですか?・・・・・・もしかして、彼女?」 「お前も、思考が清家だな。似てきたか」 そう悪態を吐いてきた彼の顔に、不機嫌さは滲まない。怒っているのではないのだろうと、一歩だけ踏み込むつもりで口を開いた。 「愛が深いすね」 「どうして?」 「いやだって、寝不足になるほどって。激し過ぎませんか」 「・・・まだそれを言うか」 「それに、海の守り神のキーホルダーとか。ちょっと重いというか」 「それは同意だな」 「でも、その人、すごい新波さんのこと愛してるんだってことは、分かります」 「・・・」 「その人、本当に新波さんのこと、好きなんすねきっと」 「・・・・・・そうなのかな」 彼はそう、ぽつりと呟いて、そのウミガメの飾りを握りしめた。長くて筋張ったその指先が握りしめたその飾りが、小さな音をたてた気がする。 どこともつかない時間軸の世界を見つめるように、彼はもう、見通せないほどに暗くなったその運河の向こう側に視線を遣った。それはほんのわずかな痛みを滲ませたようでもいて、けれどとてつもなく幸福なもののようにも思えた。
「まだあまり、自信はない。 ———本当に、自分が。相手にとって必要な存在なのか」
「・・・あの、CAさんですか」 彼が空に投げた問いには答えてはいけない気がして、話題を逸らすように尋ねた自分に、彼は少しだけ怪訝な顔をした。 「CA?」 「彼女さんですよ。海老名さん・・・でしたっけ?ほら」 「・・・」 「違うんですか」 少しの間だけ考えるような仕草を見せたあと、彼はく、と喉元でこらえきれないような笑い声を出した。面白いことを聞いたかのように、その笑いは数秒ほど続く。 「違う」 「え、ええそうなんすか・・・てっきり」 「彼女はただの友人だ。良い店をよく知っているから、時々、飲みに行くだけの」 「・・・そうだったのか・・・え、じゃあ誰ですか」 「え?」 「新波さんの彼女って、誰ですか?空港の人ですか」 「そんなもん、言うわけないだろ」 「何でですか。やっぱり道ならぬ・・・」 「言っただろ。・・・相手に、迷惑をかけたくないだけだ」 「そんな遠慮、いります?」 「いるんだよ、俺には」 「よく分かんないすけど。彼女でしょ?堂々としてりゃいいのに」 「色々、あるからな」 「へえ、・・・・・・じゃあ、どんな人ですか?」 しつこく食い下がった自分に、彼はさすがに小さく呆れたような表情を浮かべた。 けれどここまで来たなら、何らかの情報は得たいと思ってしまう。清家主任に一歩先んじてやろうという思いもわずかにあった。けれど圧倒的に、この、目の前の人のことを、その背を追いかけている人のことを、わずかでも多く知りたいという思いがあった。 手の届かない憧れの人だとずっと思っていたのだ。レーティングを取って管制官として同じ場所に立つ今でもそういう思いは拭えない。どんなことを考えて、どんな未来を描いて、そして、どんな人を好きになるのか。 それは恋にも似ているのかもしれない。慌ててその突拍子もない自分の思考に、どうかしていると頭を振った。 「・・・」 「どんな人かなら、教えてもらってもいいでしょう。かわいいとか、美人とか。・・・興味、あります」 困ったように彼は眉を下げる。口元で何かを転がすように彼は黙り込んだ。ひゅう、と一筋冬の冷えた風が吹く。ごう、と遠くで飛行機が飛び立つ音がした。
「———一緒に、空を飛ぶ人」
彼はそう一言言ったきり、暗い紺色に染まった夜空を見上げる。飛び立った航空機の赤い灯火がちかちかと星のように光っていた。 それ以上は尋ねてももう答えは返ってこないのだろうと思った。踵を返した彼に何も言うことは出来ずに、その後を、そろそろと黙ってついていくより他は無かった。 ハーフコートのポケットに彼は手を入れて、肩を縮こませるように一歩を踏み出す。その手の中に握り込まれたキーチェーンにもうひとつぶら下がっていた飾りのことを、もう聞くことは出来ない。 ナナハチだった。ボーイング787。一瞬視界に過ぎった、その銀色の機体には覚えがあった。 『———ナイスコントロール、蕪木さん』
1年前、そう告げられた「声」が脳裏に響く。理由は分からなかった。
ーーー
誰が飾ったのだろうか、ブリーフィングルームの扉に掛けられた小さなしめ縄飾りを指先でひと撫でする。
ターミナルレーダー室で未だ年末年始の出勤をぼやく清家主任とそれをなだめる栗田主任に挨拶をして、タワー最上部の管制塔へ向かう。扉を開くと、一足先に空を眺める彼の背が見えた。 「おはようございます」 そう声をかけると彼は振り返った。手にはヘッドセットが握られている。夜勤の管制官との交替の時間は近かった。離着陸する航空機に隙間は生まれない。彼はこちらを一瞥して少し微笑むと、慣れた手付きでヘッドセットを装着した。 いつもどおりの日常なのだろうとふと思って、年末年始は帰省出来ないのだと家族に告げた自分のことを思い出した。残念がる素振りは見せていたが、この仕事をすると話したときに、そうなることはもう分かっていたようだった。 自分には待っている大切な人も、この仕事を放り出してでも会いにいこうと想う愛しい人も今のところはいない。それよりも、隣に立つ彼の背に、少しでも近くなりたい、それが今一番最優先の事項なのだと思う。 彼はそうではないのだろうか。年始をタワーで過ごした彼に尋ねるのは野暮な気もして、けれど知りたいと思う心もどこかにはあった。それは、あのクリスマス前の忘年会の夜、自分だけが知った彼の隠された素顔を今も覚えているからだろうか。 握りしめられたホヌとナナハチ。見上げた空。どうにもあの夜から、自分はおかしい。 振り切るように、ヘッドセットを身に着ける。耳元から伸びるボイスチューブの位置を整えた。青く濃い空とも海ともつかないそのボイスチューブの色は、今隣に立つ彼と同じ色だ。 『好きな色を選ぶといい』 レーティング試験に合格したとき、そう言って手渡されたのがこのボイスチューブだった。 聞けば羽田管制の伝統で、レーティング試験に合格した者には必ず手渡されるものらしい。色とりどりのボイスチューブから選んだのは、彼と同じ、深いマリンブルーの色だった。 それは自分の意思表明でもあったと思った。一度投げ出そうとした場所に戻ってきたのは彼がいたからだ。その彼に近づくまでは、もう投げ出したりしない。その決意でもあった。 「15分前から、25ノット以上の強風の影響で、16L、16Rの運用は取りやめてます」 「分かりました」 夜勤の管制官からの引き継ぎ事項に彼は手短に返答する。 「あと、ランウェイ23に着陸した全日空機からオイルリークが発生しました。D滑走路も一時閉鎖しています」 「そうですか」 新年三が日の空は青く澄み渡って、それは新たな年の幕開けを祝福するようだ。けれど彼の表情はわずかに険しくなる。 3本の滑走路が使用できなくなっているということは、残った滑走路に着陸する航空機が集中するということだ。すなわちそれだけ管制が難しくなることと同義だった。それくらいのことは、自分にでも理解できた。 今日は3日だ。明日からの仕事始めを控えて、目いっぱいに乗客も荷物も詰め込んだ航空機が次々に降りてくる。自分たちにとって正月はあってないようなものでも、この羽田に降り立つ人々にとってはそうではない。 ぴり、と走った緊張感を無視出来ないとは思った。彼の目も、既に東京コントロールの管理下を離れ着陸態勢を取る航空機の機影を見つめている。
「———今日でしたよね」 「?」 不意に零した自分に、彼が訝しげな視線を向けた。 「3日でしたっけ。戻りのホノルル便」 「・・・、ああ、・・・」 「秋津さんですよね、操縦してるの。・・・帰ってくるんですね」 「・・・」 そこまで言っておいて、なぜその話を自分は彼に振ったのだろうとおかしな気持ちになった。けれどそれは雑談の範疇と思ってもいいはずで、そこに意味を見出そうとしている自分がおかしいのだろうと思う。 答えない彼に、重ねるように言葉をかけた。 「ちょっと滑走路もアレですけど。無事、帰ってこれたらいいですね」 努めて茶化した声に、彼がわずかに強張らせた肩の力を緩めるのが分かる。 「———ああ、そうだな」 そう一言、柔らかな声がその相槌を紡ぐのを、黙って聞いていた。昇り切ろうとする日の光が、やがて管制室を白く染め始める。 『Japan Air 212,reduce speed to 190.』 彼の声が、その指示を紡ぐ。心地よく響くそれに、居住まいを正して空を睨んだ。
「ホールド機が増えてきたんじゃないか。もっと効率よく回せ、蕪木」 「はい」 矢継ぎ早に聞こえてくるパイロットからのリクエストを捌きながら、流れてくるストリップに目を通す。レーダーには高度を変えながら数珠つなぎになった航空機の機影が並んでいた。 「成田から全日空322便、ダイバートの要請です。成田は強風で全滑走路閉鎖だそうです」 焦ったような他の管制官の報告が飛び交う。それを彼が、淡々と落ち着いた様子で処理していた。 「燃料の残っている機は静岡かセントレアに回せるか依頼してくれ。あと北からのホールド機が溜まってきてる、順に降ろしていこう」 「はい」 「D滑走路の復旧はまだか」 「あと数時間は必要だと。年始で人手が無く、時間がかかっているみたいです」 「そうか」 「ランウェイ22も横風がかなりきついです。このままじゃ閉鎖ですよ」 「成田がアウトなら、燃料不足で行き場を失う便もある。国際線の戻り便が増便になっている影響もあるだろう。 こっちはぎりぎりまで保たせるはずだ。とにかく使える滑走路に降ろしていけ」 「分かりました」 むしろ全滑走路閉鎖の方がましだ、というのはこちらの都合でしかない。浅はかな言葉も発する余裕は無くて、ただ無心に、リクエストを処理し続ける。 なかなか着陸許可が降りないことに苛立っているパイロットも増えてきたようだ。まだなのかとせっつくような声音に、こっちだって精一杯だと悪態の一つも吐きたい思いがした。けれど、それはしてはいけない。ぐっとこらえて、次の指示を出す。 『All Nippon 112,runway 22,cleared to land.』 風の情報が抜けたことに気が付いたが、もうそれを訂正することも出来なかった。隙間を縫うように、他の航空機からのリクエストが響く。相手のパイロットからの再リクエストは無かった。それほど、過密した上空では、余裕が無いということなのかもしれない。 ———ウインドチェック、こまめに。彼がそう言った言葉を思い出す。何度も唱えて、もう一度集中を取り戻そうと画面を睨んだ。
「新波さん、東京コントロールからエマージェンシーかかりました」 ターミナルレーダー室から報告が上がってきたのは、着陸の第一波を超えたその時のことだった。彼がゆっくりと顔を上げる。スピーカーにした音声は、最上部の管制塔に響き渡る。 「ジャパンエアー128、ホノルルからの戻り便です。原因は現在不明ですが、羽田沖で片方のエンジンが停止したそうです」 「———・・・」 「副操縦士の報告によると、エンジン内で電気系統のトラブルによる火災が発生しているようだと」 早口に告げられた事実に、管制室が一瞬しんと静まり返る。ごくりと唾を飲む音は、自分がさせた音だった。 言ってはならないと思いながらも、喉元までせり上がった言葉は、戻すことは出来なかった。 「ホノルルからの戻り便って、・・・秋津さんの・・・」 最後まで言い切らないうちに、東京コントロールからの音声がそれに重なった。 「リクエストプライオリティで、最優先の着陸を要請しています。羽田は現在受け入れ可能ですか?」 「———現在位置は?」 彼が押し殺すような低い声で、ターミナルレーダー室に問いかける。レーダー室からは清家主任の声が聞こえた。 「該当機は羽田から70マイル。だが、周辺にホールド機が溜まりすぎてる。いったんそれをどうにかしないと、128便は降ろせない」 「ゴーアラウンドできる機はそうしよう。北から来る機はどこかで待機させて、128便を最優先で降ろす」 彼はそう落ち着いた声で返答した。穏やかに、今見える青い空の色に似た凛と響くその声に、管制塔にいる管制官が、小さく頷く。 す、と息を吸う小さな音が聴こえる。それは彼のさせた呼吸音だった。続いて、声が響く。 「——羽田は受け入れ可能です、そのまま、進入を継続してください」 「分かりました」 東京コントロールからの返答が聞こえた。 「128便、もうすぐアプローチ圏内に入ってきます」 それに清家主任の低い声が重なる。管制塔の空気が、氷のようにぴんと張り詰めていくのが分かった。 やがて、無線が入る音がする。管制塔に、パイロットからの音声が響いた。 『Tokyo approach,Japan Air 128,』 その声の主のことは分かっていて、記憶からその声を取り出す。張りのある通りの良い声には、確かに覚えがあった。あの、パイロットの彼だと確信するのに時間はかからなかった。それは、その声を同じように聴く彼も同じことなのだろうと思う。眉間に刻まれた皺が深くなるのが分かった。 「ジャパンエアー128、状況は把握しています。ここからは日本語でかまいません」 清家主任がレーダー室から丁寧にそう声をかけるのが分かった。 『ありがとうございます。緊急のため、日本語で申し上げます』 声は続いた。丁寧な口調は落ち着きを表しているようにも思える。けれどけしてそれは、航空機の中の状態を示しているものではないのだろう。 『現在、右エンジンが停止しています。おそらく電気系統の故障による火災が原因かと思われます。そうであれば、もう片方のエンジンも停止する可能性があります』 「・・・そんな」 思わず零した言葉を、慌てて飲み込む。 ナナハチには2基のエンジンが搭載されている。その両エンジンが停止したらどうなるか、子どもでも分かることだ。思った以上の深刻な事態に、誰もが固唾を飲んだ。彼は険しい表情を崩さないまま、その音声に耳を澄ませていた。 『最優先での着陸をリクエストします。可能ですか』 「了解しました。ジャパンエアー128、このまま進入継続してください。着陸時の緊急事態に備え、態勢を取っておきます」 『roger.』 手短な返答のあと、音声はいったん途切れた。 数秒ほどの静寂のあと、口を引き結んでいた彼が、何かを決めたようにその口を開いた。 「蕪木、着陸時の火災に備えて消防と救急の手配をしてくれ」 「火災」という言葉の持つ響きに、一瞬ぞわりと首筋が冷えた。 「———・・・あ、はい」 「上空の機はいったんホールドさせる。128便が最優先だ。着陸態勢に入った機にはゴーアラウンドの指示を」 「承知しました」 「レーダー室からの連絡はスピーカーのままにしてくれ」 「はい」 管制塔に声が飛び交う。ランウェイ22が、128便を出迎えるための態勢を取り始めた。 彼は空を見上げる。まだ128便は機影すらも見えない。けれど彼は、その青い空から目を離さなかった。
「128便の現在地は羽田から70マイル。ここに来るまでにもう片方のエンジンが停止すれば、128便は墜落する。 そうなる前に、早く———・・・・・・」 「・・・新波さん?」
『スノー状態』 そう、栗田主任が以前指導してきたことをふと思い出した。 『管制官は極度の緊張に晒される仕事です。 特に離着陸時の管制を担当する管制塔は、何百人という命を預かっているというプレッシャーが高い場所とも言えますね』 『へえ』 『そんな中で、吹雪の中に立つように景色が見えなくなって、思考停止、管制ができなくなることを『スノー状態』と言います。『スノー状態』はどんなに経験を積んだ管制官でも陥る可能性があります。航空機を安全に降ろさねばならない、そういった大きな責任と重圧が引き起こす心理的な現象です』 『そんなことが』 『そうならないために私たちは管制塔に立つ時間と、休憩時間がきちんと定められています。長時間の管制は『スノー状態』を引き起こしやすくなるからです。 それに、普段から、多少の物事には動じない精神の鍛錬が必要ですよね』 そう、何でも無いことのように栗田主任が締めくくったのを思い起こした。 「新波さん」 消防と救急に待機スポットを確認しながら、小声で声をかけた。窓の外の空を見つめたまま、彼の背は微動だにしなかった。 濃いブルーのシャツの袖から、筋張った手がのぞく。そこだけ映像が停止したように見えていた彼の姿の中で、その手から目が離せなくなった。
——震えている。
その小刻みな動きは、目を凝らさなければ分からない。実際、管制塔の誰もが、その彼の動きに、気が付いてはいなかった。 自分を除いては。 『蕪木は、目が良いな』そんな風に小さく笑っていた、あの夜の記憶が大きな波のように寄せて自分の神経を揺らした。 彼の背に、今128便を操縦するパイロットの彼の姿が重なる。視線を外すことが出来ないでいた。 濁りない空に飛び立つ一対の翼。白い直線を描いて、ただ一人で飛ぶ。 その翼に、なぜかナナハチのあの大きく白い翼が、重なって見えた。小さく揺れる、銀色のナナハチ。寄り添うように添えられたホヌの映像が、頭に過る。 『ホヌは海の守り神だ』 そう言った彼の、柔らかで愛おしげな視線をよみがえらせた。
「——・・・新波さん!!!」
怒鳴りつけるように声を荒らげた。その大きな自分の声に、彼がはっとしたように、肩をびくりと震わせた。 重なるように、レーダー室からの音声が響き渡った。 「ジャパンエアー128、もうすぐ来るぞ!!」 清家主任の声が、ひときわ鋭く響く。着陸態勢に入った128便の管制は、管制塔に委ねられる。 「新波さん、ランウェイ22、128便来ます!」 振り返ってこちらを見つめる彼の目に、色が戻る。頷くように彼はぎゅうと唇を引き結んだ。そうして管制塔の外、わずかな粒のような機影に目を凝らして、ボイスチューブの位置を整えた。 『Japan Air 128,runway 22,cleared to land,wind 250,at 23.maximum 28 knots.』 粒のようにクリアに聴こえる声が、空に溶けるように、そうして祈りのように響く。 『Japan Air 128,runway 22,roger.』 程なくして応答してきた彼の声は、ひどく冷静で、それは彼の「声」に、全幅の信頼を置いているようにも思えた。
——「声」が無ければ、私たちは飛べない。 そう言ったパイロットの彼の、穏やかな声が頭の中で何度もリフレインした。 機影はみるみるうちに大きく、はっきりとした形を取り始める。 『安全のため、日本語で申し上げます』 ゆっくりと、確かめるように彼がその「声」を紡ぐ。 『ランウェイ22の風向は250度、風速は23ノット、最大28ノット。周辺に他の航空機はありません』 管制塔の視線は、その128便の白い機体に一心に注がれている。高度を下げるその機体を、ただ自分も見つめた。 ただ思うことは一つだ、——どうか無事に。降りてくれ。 『ランウェイ22、着陸に支障ありません』 パイロットの彼の応答も日本語に切り替わる。 『地上には消防を待機させてあります。緊急時の態勢には問題ありません』 『ラジャー、感謝します』 彼の声が、空から降るように響く。
『——竜太』
掠れたような彼の声が、空に波紋を描くかのように、静かに響く。それが誰の名前なのか、一瞬分からずに戸惑った。そうしてその声を誰が発しているのかも、すぐには分からなかった。 『大丈夫だ、必ず。——俺が、竜太を降ろす』 『分かりました』 手短な音声は途切れ、高度を知らせる音声が響く。 遠目でギアが降りたのが分かった。眼前まで迫ったその白いナナハチの機体が、照らす午前の白い光に反射して、その輪郭をくっきりとこちらに映した。 鋭い金属音が響き、ランウェイ22にナナハチが降り立つ。 徐々に速度を緩めた機体はそろそろと滑走路を滑り、目的のスポットへ向けて、機首をゆるやかに回転させた。ランディング。着陸は無事に行われたことが確認される。 大きなため息がいくつも重なった。知らぬうちに、管制塔の中に小さな拍手が起こる。さざ波のようなその拍手を聴きながら、視線を動かした。無事降り立ったナナハチを見つめ続ける彼の姿が、視界に入った。 大きく深呼吸を繰り返すように、彼の肩は小さく上下していた。それは震えているようにも見えた。長く伸びたその指先がゆっくりと、目元に添えられる。
「———・・・」 声は聴こえない。けれど、彼がどんな思いであのナナハチを見つめているのか、戻ってきたパイロットの彼をこのタワーからどう見つめているのか、それは、どことなく考えてはいけないような気がした。 『Nice controll,Thank you.』 コックピットからのその「声」が、大きな翼で、彼の身体を包むように柔らかに響く。 彼はそれには答えなかった。
ーーー
抜けるような新年の空の色は、海の色にも似ているような気がした。
展望デッキの片隅で、紙カップのコーヒーをすする。 吹き晒しになったその場所に、海からの強い風は吹き付ける。このままでは飲み干すまでにこのコーヒーは冷めてしまうだろうと思った。 新年の羽田のターミナルはいつも以上の賑わいを見せていた。けれどさすがに、この年始の強風に立ち向かう余裕は無いのだろうか。展望デッキにいる人はまばらだ。 「ナナハチだー!」 そう声をあげる子どもに視線を送った。腕にはフライングホヌのぬいぐるみが抱き締められている。 あのホノルルからの戻り便に乗っていた乗客も中にはいるのだろう。無邪気にエプロンに駐機する機体を見つめる瞳に、小さくため息が漏れた。 きっと、自分たちが見舞われていた事態の深刻さには全く気が付かないまま。幸福な気持ちで当たり前のように、家路につくのだろうと思った。 当たり前を当たり前のまま送り出す。それが管制官の仕事だ。プラスになることはなくて、マイナスをゼロにすることに、自分たちはその全神経を向けている、毎日。 けれど当たり前であることの尊さを何よりも知っているのも自分たちなのだ。その自負も自分の中に芽生えていた。羽田に配属されて1年、ようやく、スタート地点に立ったということなのだろうか。 少しずつ手の中で温度を失いつつあるコーヒーを一口飲み下して、ゆるゆるとタキシングを始めた機体を遠目に眺める。休憩時間はもうすぐ終わる。ひと息吐く間もなく、管制塔を飛び出していった彼の姿を、頭に思い描いた。
「———本当に、ついてなかった!」
背後から声をかけられて振り返ると、白いジャケットに艶やかなスカーフを巻いたCAの彼女がいることに気が付いた。クリスマス前、居酒屋で会った時とはずいぶん違う。長い髪はきっちりと上に纏め上げられて、長い足はチャコールグレーのタイツで引き締まった印象を際立たせている。 「海老名さん」 「やっぱり年末年始のフライトはろくなこと無いわね」 そう彼女はごちりながら、ヒールの音をさせながらこちらへ近づいてくる。隣に立つと、上背のある自分でも視線が合うくらいであることに気が付いた。あの居酒屋で会ったときは彼との関係に気を取られて気が付かなかったが、いざ彼女を目の前にするとやや緊張して顔面の筋肉が硬直するような気がした。 ———美人だな。彼氏いるんだろうか。そんな低俗な疑問しか浮かばないのは、あの管制塔で使える神経を使い果たしてしまったからだろうか。口にしてはならないと口の端に力を入れる。 風に乗って甘い花の香りが漂う。頭の中を読まれでもしているのだろうか。彼女はやんわりとこちらを見て微笑んだ。 「お疲れさまです。・・・大変、でしたね」 「そちらこそ。年始からエンジントラブルなんて人騒がせなことだったわね。お疲れさまです」 「・・・」 何でもないことのようにそう告げられて、ひと仕事終えたような気になっていたのは何なのだろうとおかしな気分になった。けれどそれは、こちらへの気遣いだということも分かっている。返答に困って視線を滑走路に向けた。16R、16Lは閉鎖になったままだが、D滑走路が復旧したおかげで、午前の忙しなさは若干緩和していた。 背後の海にせり出したD滑走路から、また一機飛び立つ。濁り無く青く染められた空に機体が溶けていくのを、二人で黙って見上げた。
「また助けられたわね」
「?」 「あなたと、新波くんの『声』に」 彼女はそう呟いて、丁寧に桃色に塗られた唇をゆるりと上げて小さく笑った。 「ありがとう」 「いいえ、俺たちは、当たり前の仕事をしただけで・・・」 「殊勝ね。それでも、けっこう機内はパニックだったのよ?」 「そうだったんですか」 「まあ、秋津くんは動じないというか。あの子はどういう神経しているのか分からないけど。確信があったみたいだけどね」 「どういうことですか」
「———羽田にさえ行けば」 彼女はそう言って、滑走路の上に伸びる空を見上げて、目を細めた。そうして何かを思い出すように一瞬目を閉じて、すう、とわずかに冷たい地上からの風を吸い込む。 「羽田に行けば、新波くんがいる。だから大丈夫なんて。何を言ってるのかって」
「自信満々にそんなこと言うもんだから。こっちもだったら大丈夫なのかなあなんて。どうかしてたわね。結局何も無かったからいいけれど」 「そんなことが・・・」 「あなたも分かってるんでしょ?」 「・・・え?」 「新波くんと飛ぶ人が、どんな人か。・・・秋津くんが、新波くんにとってどんな人なのか」
———『一緒に、空を飛ぶ人』
「ああ、・・・・・・まあ、そこは」 ここに来るまでに目にした景色に、思いを馳せた。手の中のカップはもうすっかり冷えて、口にするのもどこか遠慮がある。 「あんな顔する人なんて思ってませんでした、俺」 「よね、私もよ」 彼女はそう相槌を打った。 少しずつ前に進むように、遠慮がちに彼の腕が回される。 張り詰めた感情が溢れるように、笑みが零れる。そうして迎え入れた黒いジャケットの腕が、伸ばされた腕を取って抱き締める。 声が聴こえるわけではない。けれど二人の浮かべた表情が込められた感情を伝えてきた。
『———おかえり』
ナナハチの翼と、ホヌが重なる。羽田の空の下で。 お互いに戻るべき場所に戻ってきたことを感じ入るように、その腕にいっそう力がこもるのをただ見つめていた。
「ふられちゃった?蕪木さん」 「え?」 視線を隣に動かすと、いたずらめいた瞳で微笑む彼女と目が合った。 「秋津くんに取られちゃったと、思ってる?」 「・・・何でですか。新波さんは、上司ですよ」 「そんな顔してないけど」 「そりゃまあ、水臭いというか。まあ、・・・寂しいものはありますけどね」 「ふふ」 「だからって、上司の恋路を邪魔するとかないですよ、海老名さん」 「それはもちろん」 ちくりと底で小さく痛んだ心のことを知られるのはどことなく気まずいと思った。 そもそも恋心ではないだろうと思う。自分が彼に抱いているのは大いなるリスペクトであって、憧れであるだけだ。彼は自分にとって、進むべき目標で、確かな標で、目指す場所だ。 そこまで考えて、それを恋だと言われては立つ瀬がないと思い直した。言い訳じみた自分の思考が嫌になる。 それを見抜いているかのように、彼女は含んだ笑いでこちらを見つめているだけだった。何か感情を共有したような気になっているのは、自分だけだろうか。
「あーいいなぁ、今からあの二人は遅めのお正月、キャッキャウフフねえ」 彼女はそう独り言のように言って、軽く伸びをした。濁りない透明な空に、一本、長く白い雲が筆で描いたように伸びる。 「我慢比べってそういうことだったんですか」 「どっちもいい大人だからね」 「下品すよ」 「何よ、私だってハッピーなお正月過ごしたいって思ってもいいじゃない。 チーフパーサーって案外、ストレスが貯まるものよ?」 「じゃあ俺と、呑み友達になってください。新波さんみたいに」 「・・・」 言ってはっと口元を抑えた自分に、彼女が丁寧にアイカラーを塗った目を丸く見開くのが分かった。もごもごとかける言葉に惑う自分に、彼女は笑う。 「・・・すみません」 「旦那いるけど、私。いいかしら?」 「え、ええええ!」 「新波くんのことは旦那も知ってるから、何も言わなかったけど。君はどうかな」 若いしね、と彼女は笑う。 さすがに自分が道ならぬ恋に溺れるのは避けたい。目を白黒させた自分の立たせた髪に触れるように、彼女はぽんぽん、と頭を柔らかに叩いてくる。その手付きはまるでペットを撫でるようなそれだ。 頭に清家主任の悪態が思い浮かんだ。頭つんつんタヌキ。どうにもしっくり来るのが悔しい。 「あー、じゃあいいです」 「そんなこと言わずに。新波くんと私と。ランチからでもいいかしら?」 「じゃあそこからでいいです」 「じゃあさっそく、新波くんに・・・」 彼女はごそごそとジャケットから携帯を取り出す。それを手で留めた。 「駄目でしょ。今秋津さんと、いるのに」 「・・・あーそっかあ!」 「旦那さんといてあげてくださいよ、正月でしょ」 「いいのいいの」
重い機械音が響いて、滑走路から飛行機が飛び立つ。自分にとって日常の風景はそれが新年でも変わることはない。 ヘッドセットを付けなくても頭の中で、その「声」は自然と流れる。それを噛みしめるようにして、口の中だけで唱えた。 ローカルイーストに立つ彼の背が重なる。いつかその背に追いついたとき、見える空はどんな色をしているだろう。そうして、彼に寄り添う翼は、彼をこれからどんな空へ、連れて行くのだろう。 いつかは分からないけれど、いつかは。そう、自分に言い聞かせる。
『Japan Air 112,runway 34L,cleared for take off.』 飛び立つ機影に呼びかけた。新しい年が、動き始める。
———あけまして、おめでとう。