わずかな花の香を漂わせた艦上に、半旗がはためく。
祈りを捧げる静かな空気は柔らかに吹き抜ける海風に乗って、「いぶき」の広い甲板を静謐な空間へと染め上げていく。 その祈りの向かう先は、今日この世界に生きる人々のそれぞれにある。それは隣に立つ誰かに対してなのかもしれない、あるいは、もうこの世界のどこか遠くに、魂だけで存在する誰かに宛てられるものなのかもしれない。 『名前は、呪いです』 そうして何よりも尊い祈りだと、そう言った。 短なひとつひとつの音に、心を込める。共にありたいと、そうして共にありたかったと願いながら、その名前を人は紡ぐ。己の中で形作られていく確かな想いを届かせるように。 近くなった指に触れて絡める。解ける小さな笑みに同じだけのそれで答えた。
――――あなたが、その名前を呼んでくれるなら。