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名前を呪いだと言ったのは誰だったか。

あやふやだった心は名を与えられることで形を取り始める。まるで輪郭を描き、手の中に収まるかのように。  そうして波立っていた心を鎮め、安定させる。それはあたかも心を支配したようにも思える。けれどそうではなくて、ただ説明のつかないものに言葉で枠を与えたに過ぎない。  その枠は自由に浮遊していた己を縛める柵でもあるのかもしれなかった。囚われて奪われる。その意味で言うならば、呪いだとそう例えられてもおかしくはないのだろう。

けれど呪いは祈りのように、ただ流れのままに愛おしい人の名前を呼ぶ。  そうして呼ばれる呪いさえも甘受する。

――あなたが、私を呼ぶのなら。

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